AIの開発を外部に委託するとき、「とりあえず一つの契約を結んで全部お願いする」というやり方は、あまりうまくいきません。AI開発には段階があり、各段階で「何をするか」「何が成果物か」「誰がリスクを負うか」がまったく異なるからです。
適切な契約を適切なフェーズで結ぶこと——それがAI開発委託契約の基本です。
AI開発の三つのフェーズ
AI開発は大きく三つのフェーズに分けられます。
料理にたとえるなら、「まず試作してみる→本格的に作る→提供しながら改善する」という流れです。
①探索・検討フェーズ(PoCフェーズ)——「このAIは本当に作れるのか」「作ったとして、どのくらいの精度が出るのか」を小規模に検証するフェーズです。本格的な開発に入る前に、技術的な可能性とビジネス価値を確かめます。
新しいレストランを開く前に、まず試食会を開いてお客さんの反応を見るようなイメージです。
②開発フェーズ——PoCで可能性が確認できたら、本格的にAIシステムを開発するフェーズです。データの収集・加工、モデルの学習・評価、システムへの組み込みなどを行います。
試作から本番メニューへ——本格的な仕込みが始まります。
③運用・保守フェーズ——完成したAIシステムを実際に運用しながら、モデルの精度を維持・改善するフェーズです。データの更新、モデルの再学習、システムのメンテナンスなどを行います。
レストランがオープンした後も、お客さんの反応を見ながらメニューを改善し続けるようなイメージです。
請負契約と準委任契約
AI開発委託契約で特に重要なのが、請負契約と準委任契約の違いです。一言でいえば——
請負契約は「結果を約束する」契約。
準委任契約は「プロセスを約束する」契約。
この違いが、リスクの負い方を大きく変えます。
請負契約(うけおいけいやく)とは、「決められた成果物を完成させることを約束する」契約です。
建物の建築を依頼するとき、「この設計通りの建物を完成させてください」という約束——これが請負契約のイメージです。
成果物が完成して初めて報酬が発生し、完成しなければ報酬を請求できません。
準委任契約(じゅんいにんけいやく)とは、「一定の業務を誠実に行うことを約束する」契約です。
医師に診察を依頼するとき、「必ず病気を治してください」とは約束できません。しかし「最善を尽くして診察します」という約束はできる——これが準委任契約のイメージです。
業務の遂行に対して報酬が発生します。
AI開発は準委任契約
AIの開発を「精度90%のモデルを作る」という請負契約で依頼したとしましょう。開発者は最善を尽くしましたが、データの質が不十分で精度が85%にしか達しなかった——このとき、開発者は報酬を受け取れないのでしょうか。成果物が「完成した」といえるのでしょうか。
この問いに答えることが、AI開発ではとても難しいのです。
AIモデルの精度は、データの質・量・特性によって大きく変わります。どれだけ優秀なエンジニアが開発しても、データが不十分であれば目標精度に届かないことがあります。「結果を約束する」請負契約は、この不確実性と相性が悪い。
だからAI開発では、「最善を尽くして開発する」という準委任契約が選ばれることが多いのです。
特定の精度を保証する義務は負わないが、誠実に業務を遂行する義務を負う——AI開発の現実に合った契約形態といえます。
AI・データの利用に関する契約ガイドライン
AI開発委託契約をどう結ぶべきか——その指針となるのが、経済産業省が公表した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」です。
何のためのガイドラインか、誰が出しているか、何を定めているかを押さえておきましょう。
何のため——AI開発委託における契約上の論点を整理し、発注者と受託者の双方にとって公平で明確な契約関係を築くための指針を示すため。
誰が——経済産業省が公表。法的な拘束力はないが、実務上の標準として広く参照されている。
何を定めているか——各フェーズに適した契約形態、知的財産の帰属、データの利用条件、精度保証の考え方など、AI開発委託における主要な論点について具体的な指針を示している。
まとめ
請負契約 → 決められた成果物を完成させることを約束する契約。成果物が完成して初めて報酬が発生する。「結果を約束する」契約
準委任契約 → 一定の業務を誠実に行うことを約束する契約。業務の遂行に対して報酬が発生する。「プロセスを約束する」契約。AI開発の不確実性を反映した契約形態として多く使われる
AI・データの利用に関する契約ガイドライン → 経済産業省が公表した、AI開発委託契約における論点と指針をまとめたガイドライン。法的拘束力はないが実務上の標準として広く参照されている
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