9-3-2 発明とは何か 新規性・進歩性の考え方

特許を取るためには、まず「発明」でなければなりません。そしてその発明が特許として登録されるためには、三つの条件をすべて満たす必要があります。新規性・進歩性・産業上の利用可能性——この三つが特許取得の柱です。
この章では、まず「発明とは何か」を理解した上で、三つの条件を一つずつ丁寧に見ていきましょう。

発明とは何か

特許法における発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されています。少し難しい言葉ですが、一つずつ分解してみましょう。

「自然法則を利用した」——物理・化学・生物などの自然界の法則を使っていることが必要です。数学の公式そのものや、ビジネスのルールだけでは発明になりません。
「技術的思想の創作」——単なる発見ではなく、新しい技術的なアイデアを「創り出した」ことが必要です。自然界にもともと存在するものを見つけただけでは発明になりません。
「高度なもの」——より簡易な技術的アイデアを保護する「実用新案」と区別するための要件です。特許はより高度な発明を保護します。

特許を取るための三つの条件

発明であることに加えて、特許として登録されるためには以下の三つの条件をすべて満たす必要があります。
① 新規性——その発明がまだ世の中に知られていないこと
② 進歩性——その発明が既存の技術から容易に思いつかないこと
③ 産業上の利用可能性——産業において利用できること

試験では「特許の要件は?」という問いに、この三つをすぐ答えられるようにしておきましょう。では一つずつ見ていきます。

①新規性とは何か

新規性(しんきせい)とは、出願前にその発明がまだ世の中に知られていないことです。

出願前に——論文で発表された、製品として販売された、ウェブ上で公開された——こういった形で世の中に知られてしまった発明は、新規性がないとして特許を取れません。

たとえばある研究者が新しいAIのアルゴリズムを開発して、学会で発表してから特許を出願しようとした場合——発表によって「世の中に知られた」状態になっているため、新規性がないと判断される可能性があります。「先に公開したら特許を取れなくなる」——これはAI研究者が特に注意すべき点です。

ただし日本では新規性喪失の例外という救済制度があります。自分の発表から原則6ヶ月以内に出願すれば、自分の発表によって新規性を失わないとして扱われます。

②進歩性とは何か

進歩性(しんぽせい)とは、その発明がその分野の専門家にとって「既存の技術から容易に思いつかない」ものであることです。

新規性は「世の中に知られていないか」という問いですが、進歩性は「専門家が既存の技術から簡単に思いつくかどうか」という問いです。

たとえば「スマートフォンに防水機能を加える」というアイデアが新規性を持っていたとしても、防水技術自体はすでに存在していて、スマートフォンに適用することが専門家にとって容易に思いつく場合——進歩性がないと判断される可能性があります。

AIの分野では、既存の機械学習技術を組み合わせただけの発明は進歩性がないと判断されることがあります。既存の技術AとBを組み合わせただけでは不十分で、その組み合わせによって「予想外の効果」が生まれていることが、進歩性の認定に重要です。

③産業上の利用可能性とは何か

産業上の利用可能性とは、その発明が産業において実際に利用できることです。

「産業」は広く解釈されており、製造業だけでなく、農業・漁業・鉱業・運輸業・通信業なども含まれます。
AIの分野では、実用的なシステムやサービスとして利用できる発明であれば、この要件を満たすことがほとんどです。

三つの要件の中では、産業上の利用可能性は比較的満たしやすい要件です。実務上は新規性と進歩性の判断が特許取得の主なハードルになることが多いです。

AIが生み出した発明の特許

AIがアルゴリズムを自ら生み出したり、新しい化合物を発見したりするケースが増えています。では、AIが生み出した発明は特許を取れるのでしょうか。

現時点の日本の特許法では、発明者「自然人(人間)」でなければなりません。 AIは発明者として認められません。

しかし「AIが発明した」場合でも、そのAIを開発・運用した人間が発明に創作的に関与していれば、その人間が発明者として特許を取れる場合があります。
「AIはあくまで道具であり、発明者はAIを使った人間だ」という考え方です。

一方で「AIが完全に自律的に生み出した発明」については、発明者となる人間が存在しないため、特許を取れないという問題が生じます。
著作権の章で見た「AI生成物に著作権は生まれるか」という問いと、同じ構造の問いがここでも現れています。この問いに対する法的な整備は、世界各国で進行中です。

まとめ

発明 → 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの。特許法による保護の対象
新規性 → 特許の要件①。出願前に世の中に知られていないこと。論文発表・販売・公開前に出願することが重要
新規性喪失の例外 → 自分の発表によって新規性を失った場合でも、発表から原則6ヶ月以内に出願すれば救済される制度
進歩性 → 特許の要件②。その分野の専門家が既存の技術から容易に思いつかないこと。既存技術の単純な組み合わせは進歩性がないと判断されることがある
産業上の利用可能性 → 特許の要件③。産業において実際に利用できること。三つの要件の中では比較的満たしやすい

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