9-2-3 AI生成物の著作権 誰が権利を持つのか

「AIが描いた絵は、誰のものか」——この問いは、法律の問いであると同時に、「創造とは何か」「作るとはどういうことか」という、人間の根源的な問いでもあります。

AIが小説を書き、絵を描き、音楽を作る時代に、著作権法はどう答えるのでしょうか。そしてその答えは、創作者にとって納得できるものなのでしょうか。
この章では、AI生成物の著作権をめぐる論点と、現時点で確立されている考え方を見ていきます。

AI生成物に著作権は生まれるか

結論から言います。現時点の日本の法律では、AIが自律的に生成した著作物には、著作権は生まれません

理由は前のページで見た「創作性」の概念に戻ります。
著作権法は「人間の思想または感情を創作的に表現したもの」を著作物として保護します。AIには「思想」も「感情」もない——だからAIが自律的に生成したものは、著作物にならないのです。

たとえば、AIに「夕暮れの海辺の絵を描いて」と指示して生成された絵——その絵を描いたのはAIです。人間はプロンプト(指示文)を入力しただけで、絵そのものの創作には関与していない。この場合、著作権は生まれないと考えられています。

人間が創作的に関与した場合

しかし、すべてのAI生成物に著作権が生まれないわけではありません。人間が創作的に関与した場合、その関与した部分に著作権が生まれる可能性があります。

問題は「どの程度の関与があれば創作的といえるか」です。現時点では明確な基準はなく、ケースバイケースで判断されます。
著作権が生まれやすい例——AIが生成した文章を人間が大幅に編集・加筆修正した。AIが生成した複数の画像の中から選び、構成を工夫して組み合わせた。AIへの指示(プロンプト)を非常に精緻に設計し、その創意工夫が生成物に反映された。
著作権が生まれにくい例——「猫の絵を描いて」という単純な指示だけでAIに生成させた。AIが生成した文章をほぼそのまま使った。
人間とAIの共同作業において、「人間の創作的な関与がどこまであるか」——これが著作権の有無を分ける境界線です。

AIが生成した画風・スタイルの問題

「画風」や「スタイル」そのものには著作権がありません。
これは著作権法の大原則——「アイデアは保護されず、表現が保護される」——から来ています。
「水彩画風」「アニメ風」という画風はアイデアであり、表現ではないため、著作権の保護対象外です。

しかし「特定の絵師さんの画風を模倣したAI生成物」の問題は、著作権法だけでは解決できない深いところにあります。法律上は「合法」でも、倫理上は「許されない」という溝が、ここに存在しています。

現在、日本でも世界でも、この問題への法的な対応が模索されています。
「特定のアーティストの名前をプロンプトに使って画像を生成することの可否」「学習データからの特定アーティストの除外要求権」——これらは現在進行形の議論です。
法律がまだ追いついていない領域で、創作者たちが傷ついている現実があります。

海外の状況

AI生成物の著作権をめぐる議論は、世界各国で進んでいます。
アメリカでは、著作権局が「人間の創作的関与がないAI生成物には著作権を認めない」という立場を明確にしています。2023年には、AIが生成した画像を含む漫画作品について、AIが生成した部分の著作権登録を認めないという判断が下されました。

中国では、AIが生成した画像に著作権を認めた判決が2023年に出ており、国によって判断が異なります。

EUでは、AIと著作権の関係を包括的に規律するAI法(AI Act)の整備が進んでいます。

著作権がないことの意味

AI生成物に著作権が生まれないとすれば、それは誰でも自由に使えるということでしょうか。
基本的にはそうです。著作権のないAI生成物は、パブリックドメインに近い扱いになります。誰でも自由にコピー・改変・商用利用ができます。

しかしここに逆説があります。AIを使って生成したコンテンツを商品として販売したい企業や個人にとって、著作権がないことは「誰でも同じものを使える」ことを意味し、独占的な権利を持てないというリスクになります。

「著作権がない」ことは、創作者にとっての喪失であると同時に、ビジネス上のリスクでもある——AI生成物の著作権問題は、複数の利害が交差する複雑な問いです。

まとめ

AI生成物 → AIが自律的に生成したコンテンツ(画像・文章・音楽など)。現時点の日本の法律では、人間の創作的関与がない場合、著作権は生まれないと考えられている
人間の創作的関与 → AI生成物に著作権が生まれるかどうかを左右する要素。どの程度の関与があれば「創作的」といえるかは、ケースバイケースで判断される
画風・スタイルの著作権 → 画風やスタイルそのものは「アイデア」であり、著作権で保護されない。特定のアーティストの画風を模倣したAI生成物は、法律上は合法だが倫理上の問題が残る

「この声、知ってる」——アニメを見ていて、ゲームをしていて、私たちはその声に感情移入します。キャラクターへの愛着は、声優さんの声があってはじめて生まれる。声は、その人そのものです。
しかし今、その「声そのもの」が、本人の知らないところで複製され、別のキャラクターに宿らせられる時代が来ています。

◆声優さんが直面している現実
AIの音声生成技術は、特定の人物の声を学習して、その人が話していない言葉を、その人の声で生成できるようになっています。数時間分の音声データがあれば、精度の高い「声のコピー」が作れてしまう。
声優さんたちが恐れているのは、こういった場面です。自分が長年かけて磨いてきた声の個性を、AIが学習して複製する。そしてその複製された声が、自分の代わりに仕事をする——あるいは、自分が絶対に引き受けないような内容のコンテンツに使われる。
日本の声優事務所や声優団体が「AIによる声の無断利用への反対」を表明し始めているのは、この危機感からです。

◆「声」は法律でどう扱われているのか
では、声優さんの声は法律でどう守られているのでしょうか。
残念ながら、現時点の日本の法律には、「声そのもの」を直接保護する明確な規定がありません。
著作権法が保護するのは「表現したもの」——声優さんが演じた特定の作品・セリフには著作権が生まれますが、「声質」「話し方のスタイル」「声の個性」は、画風と同じく「アイデア」に近いものとして、著作権では保護されにくいのです。
パブリシティ権——有名人が自分の名前・顔・声などの人格的な価値を商業的に利用することへの権利——という概念はありますが、日本では声への適用はまだ明確ではありません。
現状では、声優さんを守る主な手段は契約です。所属事務所が「声のAI学習・利用を禁止する」条項を契約に盛り込む動きが広がっています。しかし契約は、契約を結んだ相手にしか効力がありません。インターネット上に公開された音声を、見知らぬ誰かが無断で学習データとして使うことを、契約で止めることはできないのです。

◆海外の動き
海外では、この問題への法的な対応が少しずつ動き始めています。
アメリカでは2024年にNO FAKES Act(偽物禁止法)という法案が議論されました。本人の同意なくAIで声や顔を複製することを禁止しようとするものです。また同年、AIによる声の無断複製を禁止するAI法がテネシー州で成立しました。エルビス・プレスリーの出身地であるテネシー州らしい、音楽と声への強い思い入れを感じさせる法律です。
EUでも、AI Actの中で生体データの保護に関する規定が設けられており、声のデータへの適用が議論されています。
日本でも文化庁や関係団体が議論を進めていますが、まだ明確な法律は生まれていません。

◆「声は誰のものか」という問い
この問いは、技術と法律の問いであると同時に、深く哲学的な問いでもあります。
ジョン・ロックは「人間は自分の身体に対する所有権を持つ」と語りました。声は身体から生まれるものです。ならば声は、その人のものであるはずです。しかし現在の法律は、その「当たり前」をまだ十分に守れていない。
画風を盗まれた絵師さん、声を複製された声優さん——彼らが感じる「どうしようもない嫌悪感と怒り」は、法律が現実に追いついていないことへの、正当な反応です。
技術は常に法律より速く走ります。しかしそのギャップの中で傷ついているのは、いつも創作者たちです。「声は誰のものか」——この問いへの答えを、社会全体で急いで考えなければならない時代に、私たちは生きています。

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