「知らなかった」では済まされない——著作権侵害は、故意でなくても成立します。
AIを使って作ったコンテンツが、知らないうちに誰かの権利を侵害していた。そんな事態を避けるために、「著作権侵害がいつ起きるか」を正確に理解しておくことが重要です。
著作権侵害とは何か
著作権侵害とは、著作権者の許可なく、著作権法が著作権者に認めている行為——複製・公衆送信・翻訳・改変など——を行うことです。
著作権侵害が成立するためには、大きく二つの要件が必要です。
①依拠性——侵害とされる作品が、元の著作物に「依拠して」作られていること。つまり、元の著作物を見たり読んだりした上で作られていることが必要です。偶然まったく同じ作品が生まれた場合は、著作権侵害にはなりません。
②類似性——侵害とされる作品が、元の著作物と「似ている」こと。ただし似ているのが「アイデア」の部分だけなら侵害にはなりません。「表現」の部分が似ている必要があります。
AIの場面では、この二つの要件をめぐって複雑な問題が生じます。
AIが生成したコンテンツの著作権侵害
AIが生成したコンテンツが著作権侵害になりえる場面を、具体的に見ていきましょう。
①学習データの著作物をそのまま出力する場合
AIに「夏目漱石の『坊っちゃん』の冒頭を書いて」と指示して、原文そのままの文章が出力された場合——これは著作権のある作品(保護期間内のもの)であれば、著作権侵害になりえます。
ただし夏目漱石の作品はすでにパブリックドメインなので問題ありませんが、保護期間内の著作物の場合は要注意です。
②特定の著作物に酷似したコンテンツを生成する場合
AIが生成した文章や画像が、特定の著作物と表現の部分で酷似している場合、著作権侵害になりえます。
たとえばAIに「〇〇さんの小説の続きを書いて」と指示して、〇〇さんの文体・表現をそのまま模倣した文章が生成された場合。依拠性(AIが〇〇さんの作品を学習している)と類似性(表現が似ている)の両方が認められれば、著作権侵害になる可能性があります。
③著作権のあるコードをそのまま出力する場合
アプリやウェブサービスを作るためのプログラム(コード)にも、著作権があります。GitHub(ギットハブ)とは、世界中のプログラマーが自分の書いたコードを公開・共有するためのプラットフォームです。公開されているコードの多くには、「自由に使っていいが、作者の名前を表記すること」などの条件(ライセンス)がついています。
AIを使ったコード生成ツール「GitHub Copilot」は、GitHubに公開されている膨大なコードを学習して、「こういう機能を作りたい」と入力するだけで自動的にコードを生成してくれるサービスです。しかしこのツールが、学習に使ったコードをほぼそのままの形で出力することがあるとして、「私のコードが無断でAIに学習され、そのまま別の人に提供されている」という訴訟が起きています。
コードも文章や絵と同じ著作物です。AIが生成したコードが既存のコードに酷似している場合、そのライセンスの条件を確認することが重要です。
著作権侵害にならない場合
著作権侵害のリスクを正しく理解するためには、「侵害にならない場合」も知っておく必要があります。
①パブリックドメインの著作物を使う場合
保護期間が終了した著作物は自由に使えます。
②著作権法30条の4による学習
前のページで見た通り、情報解析を目的とした学習は許容されています。
③引用の要件を満たす場合
著作権法32条は、一定の条件のもとで著作物を引用することを認めています。引用の要件は——主従関係(自分のコンテンツが主、引用が従)、明瞭区別性(引用部分が明確に区別できる)、出所明示(どこから引用したかを明示)——これらを満たす必要があります。
④思想・アイデアの部分だけが似ている場合
表現ではなくアイデアが似ているだけなら、著作権侵害にはなりません。
AIを使う人が注意すべきこと
AIを使ってコンテンツを生成する側として、どんな点に注意すべきでしょうか。
AIの出力をそのまま使わない——AIが生成したコンテンツが、学習データの著作物と酷似している可能性があります。特に文章やコードは、出力結果が既存の著作物と似ていないか確認することが重要です。
プロンプトで特定の著作物を指定しない——「〇〇さんの文体で書いて」「〇〇の曲風で作って」という指示は、著作権侵害リスクを高めます。
生成されたコードのライセンスを確認する——AIが生成したコードがオープンソースのコードに酷似している場合、そのライセンスの条件を確認する必要があります。
商用利用の場合は特に慎重に——個人的な利用より商用利用の方が、著作権侵害のリスクと影響が大きくなります。
著作権侵害の効果
著作権侵害が認められた場合、どうなるのでしょうか。
民事上の責任——損害賠償請求、差止請求(侵害行為をやめるよう求める)の対象になります。
刑事上の責任——著作権侵害は刑事罰の対象にもなります。10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(法人の場合は3億円以下の罰金)が科される可能性があります。
「知らなかった」は免責理由になりません。AIを使う者として、著作権への基本的な理解は不可欠です。
まとめ
著作権侵害 → 著作権者の許可なく、著作権法が著作権者に認めている行為(複製・公衆送信・翻訳・改変など)を行うこと
依拠性 → 著作権侵害の要件の一つ。侵害とされる作品が、元の著作物に依拠して(見たり読んだりした上で)作られていること
類似性 → 著作権侵害の要件の一つ。侵害とされる作品が、元の著作物の「表現」の部分と似ていること。アイデアが似ているだけでは侵害にならない
引用 → 著作権法32条が認める、一定条件のもとでの著作物の利用。主従関係・明瞭区別性・出所明示の要件を満たす必要がある
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