9-5 独占禁止法

「強いものが勝つ」——それは自然界の法則かもしれませんが、市場においては必ずしも望ましいことではありません。一つの企業が市場を独占してしまえば、競争がなくなり、価格は上がり、技術革新は止まり、消費者は不利益を被ります。
独占禁止法は、市場における公正な競争を守るための法律です。
正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、公正取引委員会がその執行を担っています。
AIの普及によって、独占禁止法が新しい問いに直面しています。
データを大量に持つ巨大プラットフォームが市場を支配する、AIを使った価格操作が行われる——かつては想定されていなかった形の「不公正な競争」が生まれつつあります。

独占禁止法とは何か

独占禁止法が禁止する行為は、大きく三つに分けられます。
①私的独占——事業者が他の事業者の事業活動を排除・支配することで、市場における競争を実質的に制限する行為です。
②不当な取引制限——複数の事業者が共同して価格を固定したり、市場を分割したりする行為(カルテル・談合)です。
③不公正な取引方法——取引上の地位を不当に利用する行為、競争者を不当に排除する行為など、公正な競争を阻害する行為です。

競争制限・公正競争阻害性とは何か

独占禁止法の二つの重要な概念を整理しておきましょう。

競争制限とは、市場における競争が実質的に制限されることです。特定の事業者が市場を支配して、他の事業者が参入できなくなる、あるいは価格競争が行われなくなる——そういった状態を指します。

公正競争阻害性とは、公正な競争秩序を乱す性質のことです。競争制限よりも広い概念で、競争そのものを制限しなくても、競争の公正さを損なう行為も規制されます。

AIと独占禁止法

AIの普及によって、独占禁止法上の新しい論点が生まれています。具体的な場面を見ていきましょう。

①データの独占
AIの性能はデータの量と質に大きく依存します。大量のデータを持つ巨大プラットフォーム企業——GAFA(Google・Amazon・Facebook(現Meta)・Appleの四社の頭文字を取った造語)のような企業——は、そのデータを使って高精度なAIを開発し、市場での優位性をさらに高めることができます。
「データを持つ者がAIで勝ち、AIで勝った者がさらにデータを集める」——この循環が、市場の独占につながる可能性があります。データの囲い込みが競争制限にあたるかどうかは、現在世界各国の競争当局が注目している論点です。

②AIによる価格協調
複数の企業が同じAIを使って価格を設定した場合、人間が明示的に合意していなくても、AIが自律的に「協調的な価格設定」を行う可能性があります。
たとえば競合する複数のホテルが同じ価格設定AIを使った場合、そのAIが市場データを分析して似たような価格を設定し続けることで、事実上のカルテルと同様の状態が生まれることがあります。「人間が話し合っていないからカルテルではない」と言えるのか——新しい論点として議論されています。

③プラットフォームによる自社優遇
巨大なプラットフォーム企業が、自社のAIサービスを検索結果や推薦システムで優遇し、競合他社のサービスを不当に排除する行為も、独占禁止法上の問題になりえます。
Googleが検索結果で自社サービスを優遇しているとして、EUや日本で問題視されているのはその一例です。

④AIを使った入札談合
公共工事などの入札において、AIを使って競合他社の入札価格を予測・操作することで、実質的な談合を行う可能性も指摘されています。

まとめ

独占禁止法 → 市場における公正な競争を守るための法律。私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法を禁止する。公正取引委員会が執行を担う
競争制限 → 市場における競争が実質的に制限されること。特定の事業者が市場を支配して競争がなくなる状態
公正競争阻害性 → 公正な競争秩序を乱す性質のこと。競争制限より広い概念で、競争の公正さを損なう行為も含む
私的独占 → 事業者が他の事業者の事業活動を排除・支配することで市場における競争を実質的に制限する行為
カルテル → 複数の事業者が共同して価格を固定したり市場を分割したりする不当な取引制限行為