9-2-1 著作権とは何か 著作物・創作性の基本

「これは私が作ったものだ」——その一言に、どれほどの重みがあるか。
小説家が何年もかけて書き上げた物語、画家が魂を込めて描いた一枚の絵、音楽家が苦心のすえ生み出したメロディ——創作とは、作った人の時間と感情と思考が結晶したものです。
著作権法は、その結晶を守るための法律です。

著作権とは何か

著作権(copyright)とは、著作物を創作した人(著作者)が、その著作物を利用することについて持つ権利のことです。

著作権の大きな特徴は、登録や申請が不要という点です。
特許権は特許庁に出願・登録しなければ権利が生まれませんが、著作権は違います。
小説を書いた瞬間、絵を描いた瞬間、音楽を作った瞬間——創作した瞬間に自動的に権利が発生します。これを「無方式主義」と呼びます。

著作権は大きく二つに分けられます。
著作財産権——著作物を複製する、公開する、翻訳する、販売するといった「経済的な利用」に関する権利です。他の人がこれらを行うには、著作者の許可が必要です。
著作者人格権——著作物を「自分が作った」と主張する権利(氏名表示権)、著作物を無断で改変されない権利(同一性保持権)など、著作者の人格的な利益を守る権利です。著作財産権は他人に譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できません。

著作物とは何か

著作権法が保護する対象は著作物です。
著作権法では、著作物を「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義しています。

この定義には、重要なポイントが四つあります。
①思想または感情を表現したもの——単なるデータや事実は著作物になりません。「東京の人口は1400万人」という事実そのものに著作権はありません。しかしその事実を独自の視点で解説した文章には著作権が生まれます。
②創作的に表現したもの——「創作性」については次の見出しで詳しく見ますが、作者の個性が表れていることが必要です。
③表現されたもの——アイデアそのものは著作物になりません。「タイムマシンで過去に戻る物語」というアイデアは誰でも使えますが、そのアイデアを具体的に表現した小説には著作権が生まれます。これをアイデア・表現二分論と呼びます。
④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの——小説・論文・音楽・絵画・写真・映画・コンピュータプログラムなどが著作物にあたります。

創作性とは何か

著作物の要件として最も重要なのが創作性です。
しかし「創作性がある」とはどういうことでしょうか。

著作権法における創作性は、高いレベルの芸術性や独自性は必要ありません。「作者の何らかの個性が表れていれば足りる」という、比較的低いハードルが設定されています。

たとえば、日記に「今日は晴れて気持ちよかった」と書いた文章にも、著作権は生まれます。稚拙な絵でも、作者の個性が表れていれば著作物です。
一方で、完全に機械的・自動的に生成されたもの——たとえば「東京、2024年1月1日、気温5度」というような、誰が作っても同じになる情報には創作性がなく、著作物とはなりません。

AIと著作権の文脈では、この「創作性」の概念が特に重要になります。AIが自動的に生成したものには、人間の創作性が表れていないため、著作物にならない可能性がある——この問いが、次のページで見ていく「AI生成物の著作権」の核心です。

共同著作権とは何か

共同著作物とは、二人以上の人が共同で創作した著作物のことです。そしてその著作物に対して複数の著作者が持つ権利共同著作権と呼びます。

たとえば、二人の作家が共同で小説を書いた場合、その小説は共同著作物となり、二人が共同著作権を持ちます。
共同著作物の利用——出版する、映画化する、翻訳するなど——には、著作者全員の合意が必要です。一人が「出版していい」と言っても、もう一人が反対すれば出版できません。

AIと人間が共同で作品を作る場面でも、この概念が関わってきます。
人間がアイデアを出し、構成を考え、AIが文章を生成し、人間がそれを編集・修正した——この場合、人間の創作的な関与がどの程度あるかによって、著作権の帰属が変わってきます。
「人間が創作的に関与した部分」には著作権が生まれますが、「AIが自動的に生成した部分」には著作権が生まれない可能性があります。
この問いは、次のページ「AI生成物の著作権」でさらに深く掘り下げます。

職務著作とは何か

職務著作とは、会社員が職務上作成した著作物の著作者が、原則として会社(法人)になるという制度です。

通常、著作権は「実際に創作した人」に帰属します。
しかし会社員が業務として作成したプログラム・報告書・デザインなどは、一定の条件を満たす場合、会社が著作者となります。

職務著作が成立する条件は四つです。①法人等の発意に基づくこと(会社の指示や企画で作られること)、②法人等の業務に従事する者が作成すること(社員・従業員が作ること)、③職務上作成されること(業務として作ること)、④法人名義で公表されること(会社名義で発表されること)——これらをすべて満たす場合、著作者は会社になります。

AIの開発・運用の場面では、この職務著作の概念が重要になります。
たとえば——社員がAIを使って業務上のレポートや資料を作成した場合、その成果物の著作権は会社に帰属する可能性があります。
AIの開発を外部に委託した場合、委託先が作成したプログラムの著作権は誰に帰属するか——委託契約の中で明確に定めておかないと、後のトラブルの原因になります。

著作権の保護期間

著作権には、保護される期間があります。
個人が創作した著作物の場合、著作権は著作者の死後70年まで保護されます。
法人名義の著作物・職務著作の場合は、法人は死亡しないため「死後」という基準が使えません。そのため公表後70年が保護期間となります。

この期間が過ぎると、著作物はパブリックドメインとなり、誰でも自由に使えるようになります。
夏目漱石・太宰治の小説がウェブ上で無料で読めるのは、保護期間が終わってパブリックドメインになっているからです。

AIの学習データとして著作物を使う場合、パブリックドメインかどうかを確認することが重要です。
個人の著作物なら「著作者が亡くなってから70年以上経っているか」、法人名義の著作物なら「公表から70年以上経っているか」——この確認が出発点になります。

まとめ

著作権 → 著作物を創作した人が持つ権利。登録不要で創作した瞬間に自動的に発生する(無方式主義)
著作財産権 → 著作物の複製・公開・翻訳・販売などの経済的な利用に関する権利。他人に譲渡できる
著作者人格権 → 氏名表示権・同一性保持権など著作者の人格的利益を守る権利。他人に譲渡できない
著作物 → 思想または感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの
創作性 → 著作物の要件の一つ。高い芸術性は不要で、作者の何らかの個性が表れていれば足りる
アイデア・表現二分論 → アイデアそのものは著作権で保護されず、そのアイデアを具体的に表現したものが保護される考え方
共同著作物 → 二人以上が共同で創作した著作物。利用には著作者全員の合意が必要
共同著作権 → 共同著作物に対して複数の著作者が持つ権利
職務著作 → 会社員が職務上作成した著作物の著作者が、一定の条件のもとで会社(法人)になる制度
パブリックドメイン → 著作権の保護期間(著作者の死後70年)が終了し、誰でも自由に使える状態になった著作物

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