個人情報は、そのままでは使い方に大きな制約があります。
本人の同意が必要だったり、利用目的の範囲内でしか使えなかったり——これらのルールは、プライバシーを守るために必要ですが、データを積極的に活用したいビジネスの現場では、足枷になることもあります。
「プライバシーを守りながら、データを活用する」——この一見矛盾するような要求に応えるために生まれた仕組みが、匿名加工情報と仮名加工情報です。
匿名加工情報とは何か
匿名加工情報とは、個人情報を加工して、特定の個人を識別できないようにし、かつ元の個人情報に復元できないようにした情報のことです。
「識別できない」だけでなく「復元できない」という点が重要です。
加工したあとで元に戻せてしまうなら、プライバシーの保護にならないからです。
具体的な加工の例を見てみましょう。
「田中太郎、35歳、東京都渋谷区、年収600万円」という個人情報を匿名加工情報にするには——名前を削除する、年齢を「30代」に置き換える、住所を「東京都」に粗くする、年収を「500〜700万円」の範囲に置き換える——こうした加工を組み合わせることで、特定の個人を識別できない情報にします。
匿名加工情報の最大のメリットは、本人の同意なく第三者提供ができる点です。
適切に加工された匿名加工情報は、研究機関への提供、他企業とのデータ共有、AIモデルの学習データとしての活用などに使えます。
ただし匿名加工情報を作成・提供する事業者には、加工の基準を守ること、安全管理措置を講じること、第三者提供時に匿名加工情報である旨を明示することなどの義務が課されています。
仮名加工情報とは何か
仮名加工情報とは、個人情報を加工して、他の情報と照合しない限り、特定の個人を識別できないようにした情報のことです。
匿名加工情報との最大の違いは、「照合すれば元に戻せる」という点です。仮名加工情報は完全に匿名化されているわけではなく、元のデータと照合すれば誰のデータかを特定できます。
たとえば「田中太郎」という名前を「ユーザーID:00123」に置き換えた情報が仮名加工情報です。「ユーザーID:00123」だけを見ても誰かわかりませんが、「ユーザーID:00123=田中太郎」という対応表と照合すれば、田中太郎のデータだとわかります。
仮名加工情報は匿名加工情報より「緩い」加工ですが、その分、内部での分析・活用に適しています。
社内でのAIモデルの学習、統計分析、サービス改善のための分析——個人を特定せずに使えるため、プライバシーリスクを下げながら詳細なデータ分析ができます。
ただし仮名加工情報は、第三者提供が原則として禁止されています。内部利用には使えても、外部への提供はできない——この点が匿名加工情報との重要な違いです。
匿名加工情報と仮名加工情報の違い
二つの加工情報の違いを整理するとこうなります——

匿名加工情報は「外に出せるデータ」、仮名加工情報は「社内で使えるデータ」——そんなイメージで覚えておくと整理しやすいでしょう。
AIとデータ活用における意義
AIの開発では、大量のデータを学習に使います。しかしそのデータに個人情報が含まれている場合、そのまま使うことには制約があります。
匿名加工情報・仮名加工情報の仕組みは、この問題に対する一つの解決策です。
医療データをAIの学習に使いたい場合、患者の個人情報を匿名加工情報に変換することで、プライバシーを守りながらAIの学習に活用できます。社内の顧客データをAIの分析に使いたい場合、仮名加工情報に変換することで、個人を特定せずに分析できます。
「プライバシーを守りながらデータを活用する」——この章の冒頭で掲げた問いへの、法律が用意した答えが、この二つの加工情報の仕組みです。
まとめ
匿名加工情報 → 特定の個人を識別できないよう加工し、かつ元の個人情報に復元できないようにした情報。本人の同意なく第三者提供ができる
仮名加工情報 → 他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないよう加工した情報。照合すれば元に戻せる。第三者提供は原則禁止で、主に社内での分析・AI学習に使われる
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