パニック障害の影響で長年電車に乗れなかったわたし。治療で少しずつ元気を取り戻し、「実家に帰りたい」という思いから、一駅だけ電車に挑戦してみました。頓服薬やゲームを用い工夫をしながら、4年ぶりに電車に乗れたときの感動は忘れられません。支えてくれるパートナーに喜びを分かち合いながら、「小さな一歩が次の挑戦につながる」ことを実感した体験を綴ります。
パニック障害と電車への恐怖
わたしはパニック障害を持っています。
電車が大の苦手です。
うつ病、強迫性障害と三つの病気が絡まり合い、どん底のメンタル、フィジカル。電車に乗ろうものなら、確実にパニック発作を起こすであろう状態でした。
パニック発作、苦しいです。
電車のドアが閉まり、次の停車駅まで降りられない……そう思った瞬間、どっと冷や汗が出てきて、吐き気がつきあげ、服の上からでもわかるほど胸が上下動し、気持ちの悪い不安感があふれだします。
今すぐ電車を降りたい。でも、降りられない。
汗でぬめる手を握りしめ、吐いてはいけない、吐いたら迷惑になる、と言いきかせると、ますます動悸が激しくなり、不安感も増悪する一方で、死んだ方がマシだと、ガラス窓を突き破って飛び降りたい衝動にかられます。
嫌だ。二度とあんな思いしたくない。
そうして、電車に乗ることを避けて。避ければ避けるほど、ますます乗れなくなって。
でも。
入院治療を経て、三つの病気も少し落ち着いてきた。体重も増えたし、体力も少しついた。
フィジカルが上向くと、メンタルも上向きます。
パニック障害でも電車に乗れる?主治医と相談した方法
わたしの実家は、電車で2時間ほどかかる他県にあります。
年末年始やお盆の時期など、実家の家族や、地元の友達が、「今年は帰ってくる?」と、毎年のように聞いてくれます。
もう何年帰ってないだろう……帰りたい。
よし、実家に電車で帰ることを目標に、電車に挑戦してみよう!
「電車に挑戦してみたい」
主治医の先生に相談してみると、電車に乗るまえに飲む頓服を処方してくれました。
もともと、抗うつ剤や抗不安剤を飲んでいるので、それだけでも不安に対抗していける。だけど、ここまで強固に回避癖がついていることをかんがみて、頓服薬を飲んで乗ってみましょう、ということでした。
まずは、一駅。
満員電車はプレッシャーが強くなるから、避けて。
乗車30分前に頓服薬を飲む。
おそるおそる、駅へ向かいます。
改札にさしかかると、足が竦む。
頑張れ、ホームに立つだけでもいい。自分に言いきかせながら、エスカレーターでホームへ。
独特の鉄の匂い。行き先を告げるアナウンス。もわっとした空気。
帰りたい、そう思う間もなく、電車が入ってきます。
すぐに電車が来たのは、ラッキーでした。
「乗ってしまえ!」
と、考える間もなく乗ってしまえたからです。
ドアが閉まるところを見ると、不安感が爆発する。
そう思い、わたしはスマホを手にしました。
ゲームの画面を開き、操作する。これが良かった。
いつの間にかドアが閉まっていて、いつの間にか電車が動き出していて。
たった2分、それで次の駅に着く。
この2分が、パニック発作を起こすと、途方もなく長い時間に感じられることを知っています。
怖い。発作が起きたらどうしよう。
でも、心臓がどきどきいってない。
汗も出ていない。
吐き気もない。
不安感は……ぼんやりとある、でも死にそうな、あの酷いものじゃない。
薬が効いているんだ。
そう思いましたが、気を逸らすために、ゲームを操作します。
すると、ぱっと明るくなりました。きれいな女声のアナウンス。
次の駅に到着した!
やった、乗れた……!
たった一駅だけど、四年ぶりぐらいに、わたし、電車に乗れたんだ!
うれしさのあまり、都子さんにLINEします
「都子さん、わたし電車に乗れたよ!」
「すごすぎる!」「るかは頑張った、えらい」「家に帰ったら、めいっぱいよしよしする!」
仕事中にもかかわらず、言葉で、スタンプで、たくさん褒めてくれる都子さん。
仕事から帰ってきてからも、なでて、抱きしめて、たくさんたくさん褒めてくれました。
パニック障害と電車克服のために大切だと思ったこと
ところで、パニック障害持ちが電車に挑戦するとき、信頼している人に付き添ってもらうやり方があります。
積極的に活用すべき対処方法だと、推奨されています。
ですが、わたしはあえて、都子さんに付き添いを頼みませんでした。
なぜか。
都子さんに付き添ってもらっていても、パニック発作は起きた。
安心させてくれる声かけや、手を握るなどをしてもらっても、パニック発作はおさまらなかった。
むしろ、そうやって「大丈夫だよ」と声かけしてもらうほど、「わたしは今普通の状態じゃないんだ」と認識し、発作が増悪した。
という、過去があったからです。
都子さんは、わたしが世界で一番信頼している人です。
メンタル疾患で迷惑をかけ続けるわたしを、守り、支え続けてくれている人です。
それでも、その信頼を突き破るほど、パニック発作というのは激烈でした。
都子さんと一緒に電車に乗ることの、すべてが悪かったわけではありません。
「話しかけてもらう」。これはかなり効果がありました。要は、パニックに意識が向かないように、気を逸らしておけばいいのです。それには、人とお喋りをする、というのはたいへん有効です。
でも、そのことを都子さんに話すと、「るかの気を逸らしておけるように、ずっと話しつづけるのは、私には無理だと思う」と冷静に言われました。
なんでもかんでも背負いこまず、冷静に判断できる。それがあるからこそ、わたしは都子さんに全幅の信頼を置いています。
だから、1人で挑戦することにしました。
気を逸らすためには、ゲームをする。音楽を聴く。腹式呼吸をする。そんな風に「武器」を装備して。
無事に、一駅だけですが、電車に乗ることができました。
人によると思います。
付き添ってくれる人がいた方がいい、という人もいるでしょう。
そういう人の方が多いからこそ、推奨されているのでしょう。
でも、1人の方が気楽だ。そして、1人で乗ることができた。という一例を、見ていただければと思います。
それにしても、うれしい。
このまま少しずつ乗車時間を増やしていって、目指せ、特急電車です。